教育雑記帳

2013年早生まれ男子のママ。英語教育、理数教育、親の観点から読むビジネス書についてゆるく書いています。

【おかねの教育】経済の<考え方>を授業してくれるユニークな本

 一般的な経済の仕組みを解説する本ではなく、「考え方がわかる」とのタイトルに興味を持って手に取った本です。

 内容としては、小学校低学年の息子には抽象的・概念的すぎて難しいのですが、中学・高校生、あるいは大学生や大人も含めて、それこそ考え方を整理し学び直すにはちょうど良い刺激を与えてくれる本だと思いました。ちなみに、昨年より『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を出版して話題になった新井紀子氏も共同著者に名前を連ねています。

 

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経済の考え方がわかる本 (岩波ジュニア新書)  2005/6/21

新井 明 (著)、新井 紀子 (著)、柳川 範之 (著)、e-教室 (著)

 

おすすめ度:★★★★★

対   象:中学生〜高校生、親

 

 この本で最初に目を通した「はじめに」では、新井紀子氏が<経済>という科目を説明しています。これに心から納得がいきましたので、まずはそのフレーズを少し長いのですが、紹介します。

経済では、どうすれば幸せになるかは教えてくれません。「だって、あなたの幸せは、あなた自身しか知らないでしょ」と経済という科目はクールに考えるのです。「でも、あなたの幸せを実現するために、限りあるお金と時間をどううまく使うかを考える方法を教える」というのが経済という科目の仕事です。さらに経済はこう考えます。「あなたはいまの自分が自分だと思っているかもしれないけど、ちょっとした経験や状況の変化で、自分なんてけっこう変わるものだよ」「だから、あまりものごとは決めつけないで、自由度を確保しておいたほうがいい」と。これを経済ではリスクヘッジといったりします。

 

 この本は、2002年6月にインターネット上に開講された、中高生向けの「e-教室」の「経済と私」に投稿された内容を再構成したものです。各章の授業は、非常にシンプルながら、誰もが疑問に持ちそうな問いから始まります。先生による一方的な解説ではなく、先生と生徒の間の実際のやりとりをベースにしています。なので、話が横道に逸れたりしながら先生はあれこれ説明し、より深い議論に発展することもあります。それにより、様々な角度から概念の中身が見えやすくなっていると感じました。

 たとえば、第1章のテーマ「帰省ラッシュは解消できるか」で扱う概念は経済、資源、希少性、需要、供給、値段(価格)になっています。どうして渋滞が起こるのだろう、という先生からの問いかけから議論が始まります。希少性、需要と供給、価格については、私も中高生の頃、教科書で用語として学んだ記憶があります。しかし、一般的な教科書以上に突っ込んだ内容だな、と感心したのは、もっと踏み込んで「そもそもなぜ帰省するのか?帰省はなくなるのか?」という問いも発していることです。帰省というのは、都会ー田舎という関係があるから起こる現象で、生まれたときから都会に住んでいる人が多数派になれば帰省しない人が多数派になり、長期的にはいずれ渋滞が解消するのでは?という論理展開も出てきます。このように、経済問題は社会変動とも関連していることを提示しています。

 各章の終わりには、授業らしく「今回学んだ概念」、「まとめ」、「復習問題」があり、自身の学びを振り返り、深めることができる仕組みになっています。

 本書は16章で構成され、取り上げられているテーマ(各章の副題)は、希少性と選択、機会費用、市場と価格、裁定取引、貨幣、所得と財政、企業と起業、比較優位、資源配分・資源分配、為替レート、経済成長、南北問題と援助、となっています。いずれの章も、単なる用語の解説だけに止まらず、本質的な部分まで突っ込んで議論していながら、中高生がとっかかりやすい内容となっています。私自身、多くの経済学入門の類書を読んできましたが、一番わかりやすく、何度か読み返したいので手元に置いておきたい本だと思いました。